社内には、私より数年先に役職定年を迎えた先輩が、何人かいます。
Aさんも、Bさんも、迎える前は精力的な人でした。会議を仕切り、部下を鼓舞し、誰よりも早く出社していた人たちです。それが、役職を離れてしばらくすると、ある共通した変化が見えてきました。
サボっているわけではありません。むしろ真面目に机に向かっています。ただ、目の輝きのようなものが、明らかに違うのです。
これは個人の性格の問題ではなく、何かもっと構造的なものなのではないか。そう思って、しばらく先輩たちを観察するようになりました。この記事は、まだ自分がその立場になっていない今のうちに、見えてきたことを記録しておくものです。
何人かの先輩に、同じことが起きていた
最初は、たまたまだと思っていました。ですが、一人だけでなく何人かに同じ変化が見られると、偶然では片づけられなくなります。
共通していたのは、明確な「これをやりたい」という言葉が減ったことでした。以前なら、雑談の中にも次の企画やアイデアの話が自然に出てきたのに、今はあまり聞かれません。仕事は淡々とこなしているのに、そこに以前のような熱がない。
私は最初、これを「気力の衰え」だと思っていました。しかし観察を続けるうちに、少し違う見方をするようになりました。
モチベーションは、思っていたより「環境」に生かされていたのかもしれない

目標を決めるのは自分ではなく、役職だった
管理職には、期初に目標を設定し、期末に評価される仕組みがあります。当たり前すぎて意識したことがありませんでしたが、この仕組みは「次に何を目指すか」を外側から与えてくれる装置でもあったのだと思います。
役職を離れると、この装置も一緒になくなります。目標を自分で立て直す必要が出てくるのですが、それは今まで会社が用意してくれていたものを、初めて自分の手で作る作業です。この作業に慣れていない人ほど、目の輝きを失って見えるのではないか。私はそう考えるようになりました。
見られている感覚が、やる気の燃料だった
もう一つ気づいたのは、部下や周囲からの視線がなくなることの影響です。
管理職の頃は、良くも悪くも常に見られていました。判断を待たれ、意見を求められる。その「見られている感覚」自体が、実は日々のやる気の燃料の一部だったのではないでしょうか。役職を離れて、その視線が静かに減っていく。悪意ある無視ではなく、ただ単純に、頼られる場面が減っていくだけです。それでも、燃料は確実に減っていきます。
Bさんが以前、休憩室でぽつりと漏らした一言が忘れられません。「誰にも聞かれない一日って、こんなに長いんだな」。冗談めかした言い方でしたが、目は笑っていませんでした。
「残れるはず」という期待が、備えを遅らせる
あるとき、役職定年の運用実態について書かれた記事を読みました(★参考: 役職定年には運用上「延長」の余地が一定割合あるという調査結果があるとのこと)。制度上は一律の年齢で区切られるはずなのに、実際には後任がいないなどの理由で残る人もいる。だからこそ、多くの人が「自分だけは、なんだかんだで残れるかもしれない」と、どこかで期待してしまうのだそうです。
これを読んで、はっとしました。もし自分が同じ立場になったら、きっと同じように期待してしまう気がします。そしてその期待こそが、備えを先延ばしにする一番の落とし穴なのではないか。先輩たちのやる気の変化を見て感じた怖さの正体は、これだったのかもしれません。
奪われる前に、自分の中に灯しておけるもの
先輩たちの様子から見えてきたのは、やる気の多くが「外から与えられていたもの」だったという事実です。だとすれば、それが外れる前に、自分の内側に別の灯を用意しておくことはできないだろうか。今の私は、そう考えて二つのことを続けています。
学び直しは、外から与えられない目標を自分で作る練習だった
学び直しを始めてから気づいたのは、これが「会社に与えられない目標を、自分で立てる練習」になっているということです(50代の学び直しロードマップ)。何を学ぶか、どこまで学ぶかは、すべて自分で決めます。この小さな自己決定の積み重ねが、いずれ役職という装置がなくなったときの備えになるのではないかと期待しています。
小さな「見られる場所」を、会社の外に作っておく
もう一つは、副業のブログです(50代から始めやすい副業5選|学び直しを収入につなげる考え方)。読んでくださる方がいるという事実は、規模は小さくても「見られている感覚」の一つの代わりになっている気がします。社内の視線が減っていく未来に備えて、社外に小さな視線の場所を持っておく。そんな意味合いで続けています。
よくある質問(FAQ)
Q1:役職定年後のモチベーション低下は防げますか?
完全に防げる保証はありませんが、事前にキャリアプランを具体的に考えていた人ほど変化を前向きに受け止めやすい傾向があるとされています。今のうちに考え始めておくことは無駄にならないはずです。
Q2:モチベーションの低下を会社に相談してもいいのでしょうか?
相談すること自体は問題ないと思います。ただ、会社の制度そのものを変えることは難しい場合が多いため、社内での相談と並行して、自分の内側に別の目標や居場所を作っておくことも有効だと感じています。
Q3:今からでも間に合いますか?
Aさん・Bさんの様子を見る限り、備えは早いに越したことはないようですが、「もう遅い」という年齢はないと思います。今日気づいたなら、今日から少しずつ始めることに意味があるはずです。
怖さは、備える理由になる
先輩たちを見て感じた怖さは、正直、今も消えていません。自分が同じ立場になったとき、同じように目の輝きを失わない保証などどこにもないからです。
ただ、一つだけ言えることがあります。これは、老いや気力の衰えの問題ではなく、環境が変わることの問題なのだと、観察を通じて分かってきました。だからこそ、環境が変わる前の今のうちに、備える意味があるのだと思います。
ただ、その怖さのおかげで、今のうちにできることに気づけたのも事実です。もし同じように、先を歩く誰かの姿に不安を覚えている方がいたら。その不安は、無駄なものではないと思います。備える理由に変えられる限り、今のうちに動いておく価値はあるはずです。
私も、まだ観察と準備の途中です。
(この記事は特定の行動をおすすめするものではなく、50代の一会社員による観察と想像の個人的な記録です)


