50代の学び直し、何から始める?──資格テキストを積読にした私がたどり着いた「最初の一歩」

学び直しの始め方
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土曜日の午後、駅前の書店。資格コーナーの棚の前で、私は15分ほど立ち尽くしていました。

簿記、FP、宅建、ITパスポート、中小企業診断士。背表紙はどれも「あなたの未来を変える」と言わんばかりに輝いていて、そのくせ、どれ一つとして「お前が選べ」とは言ってくれない。

54歳。営業一筋でやってきて、役職定年まであと数年。会社から届いた「リスキリング研修のご案内」というメールを見た夜、私は生まれて初めて「50代 学び直し 何から」と検索しました。

もしあなたが今、同じ言葉を検索してこの記事にたどり着いたのなら、先に結論だけお伝えします。

私の場合、「何から」の答えは、資格選びではありませんでした。むしろ「何を学ぶかを決めないこと」が、最初の一歩でした。

順番にお話しします。これはあくまで、一人の50代会社員の記録です。

最初の一歩を「資格選び」にした私の失敗

冒頭の書店の話には続きがあります。

15分立ち尽くした挙句、私は簿記3級のテキストを買いました。理由は今思えば情けないもので、「一番売れていそうだったから」。帯には「社会人の学び直しの定番!」とありました。定番なら間違いないだろう、と。

結果を先に言うと、そのテキストは3週間で本棚の肥やしになりました。

最初の1週間は順調でした。借方と貸方、仕訳の基本。「なるほど、俺もまだやれるじゃないか」と気分が良かったのを覚えています。つまずいたのは2週目です。平日の残業が続いて3日空いた。3日空くと、前回の内容を思い出すところから始めなければならない。それが億劫で、また2日空く。気づけばテキストの間に挟んだしおりは、42ページから動かなくなっていました。

しばらくは自分を責めました。「やっぱり50代からじゃ遅いのか」と。

でも、時間が経って冷静に振り返ると、原因は年齢ではなかったと思うのです。私は順番を間違えていました。「なぜ学ぶのか」「自分には何があるのか」を一切考えずに、いきなり「何を学ぶか」を棚から選んでしまった。 行き先を決めずに切符だけ買ったようなものです。それでは列車に乗り続けられるはずがありません。

検索して出てくる記事の多くは「50代におすすめの資格10選」のような、いわば切符のカタログです。カタログ自体は悪くない。でも、私のように「何から始めればいいか分からない」段階の人間に必要なのは、カタログの前にやることでした。

遠回りして分かった、「何から」の答えは3つの工程だった

挫折から半年ほど遠回りをして、私なりにたどり着いた「最初の一歩」は、次の3つの工程です。

  1. 棚卸し──A4一枚に、自分の過去を書き出す
  2. 小さく試す──お金をかけずに1ヶ月だけやってみる
  3. 仕組みで続ける──意志の力に頼らない設計をする

拍子抜けするほど地味だと思います。私も当時の自分に教えたら「そんなことか」と言うでしょう。でも、この順番にしてから、私の学び直しは初めて3週間の壁を越えました。「何を学ぶか」は、この3工程を回すうちに、向こうから姿を現しました。

一つずつ、実際にやったことをお見せします。

工程①:A4一枚の「棚卸し」──学ぶ対象は過去の中にある

ある日曜の朝、コーヒーを淹れて、A4のコピー用紙を一枚だけ机に置きました。書き出したのは、たった3つの問いへの答えです。

  • これまで「できる」と言えたことは何か(職務経歴書に書くような硬い話でなくていい)
  • 人から「頼まれてきた」ことは何か(自分では当たり前すぎて気づかない強みは、頼まれごとに表れる)
  • 時間を忘れて没頭したことは何か(仕事でも趣味でも)

私の紙には、こんな言葉が並びました。「初対面の相手と話すのは苦にならない」「後輩に営業同行を頼まれることが多かった」「クルマとバイクの話なら何時間でもできる」「長距離運転が好き」──。

正直、書きながら「こんなもの、何の学びにもつながらないだろう」と思っていました。ところが眺めているうちに、妙なことに気づいたのです。私が書店で手に取った簿記は、この紙のどこにも接点がない。一方で、紙の中の言葉たち──人と話す、教える、クルマ──の周りには、調べてみると学べるものがいくつも転がっていました。

棚卸しの効能は、「学ぶ対象が見つかること」だけではありません。「自分は空っぽではない」と可視化されることです。50代の学び直しはゼロからのスタートだと思い込んでいましたが、紙を見る限り、私は30年分の在庫を持った状態で始められる。この感覚の変化が、後の継続にずいぶん効きました。

もしこの記事を閉じた後に一つだけ何かやるとしたら、今夜、この紙一枚をおすすめします。所要時間は30分。費用はコピー用紙一枚です。

工程②:お金をかけずに「小さく試す」──1ヶ月で撤退していい

棚卸しで方向の見当がついたら、次にやったのは「試す」でした。ここで大事にしたルールが一つあります。

最初の1ヶ月は、お金をほとんどかけない。そして、合わなければ堂々と撤退する。

簿記の挫折で学んだのは、50代の学び直しで一番怖いのは失敗ではなく、「高い教材を買ってしまったから」という理由だけで、合わない学びを義務のように続けることだ、ということでした。時間は私たちの一番希少な資産です。

私が実際に使った「小さく試す」手段は、こんなところです。

  • 図書館。入門書を3冊借りれば、その分野の地図はだいたい描けます。費用ゼロ
  • YouTubeの入門講義。今はたいていの分野に、驚くほど質の高い無料講義があります
  • 通信講座の無料資料請求。パンフレットには学習時間の目安やカリキュラムの全体像が載っていて、「この山は自分の生活で登れる高さか」を測る地図として優秀でした。請求したからといって受講する義務はありません
  • 自治体や公共の講座。広報誌を見ると、無料〜数千円の講座が意外なほどあります

この工程で、私は一つの分野を1ヶ月試して撤退し、別の分野に乗り換えました。以前の私ならこれを「三日坊主の再発」と呼んだでしょう。でも今は違う呼び方をしています。試行です。服を買う前に試着をして、サイズが合わなければ棚に戻す。それを誰も失敗とは呼びません。学びも同じでした。

工程③:50代の学びは「意志」ではなく「仕組み」で続ける

試して「これは続けたい」と思えるものに出会えたら、最後の工程は継続の設計です。

簿記の挫折で痛感したのですが、50代の継続の敵は記憶力でも理解力でもありませんでした。不規則な残業、付き合い、疲労──つまり「意志はあるのに時間が溶ける」構造です。だから私は、意志を信用するのをやめて、仕組みを3つだけ作りました。

  • 時間を固定する。私の場合は「朝、家を出る前の20分」。夜は会食や疲労で潰れる日があるが、朝は誰にも侵食されない
  • 記録する。手帳に日付と「やった分数」だけ書く。中身は書かない。続いている線が見えること自体が燃料になる
  • 宣言する。妻に「朝20分だけ勉強する」と言ってしまう。人に言った手前、というあの力を、この歳になって初めて味方につけました

20分は少なすぎると思われるかもしれません。でも、3週間で止まった簿記と違い、この20分は半年以上続いています。若い頃の「週末に3時間まとめて」より、50代の「毎朝20分」のほうが、少なくとも私には合っていました。積み立て投資と同じで、額の大きさより続く設計かどうかが先なのだと思います。

お金の不安には制度がある──ただし詳細は必ず公式で

最後に、お金の話を少しだけ。

学びを本格化させる段階になると、講座代が気になってきます。調べる中で知ったのですが、国には教育訓練給付制度という、条件を満たせば受講費用の一部が支給される仕組みがあり、対象講座もかなり幅広いようです。自治体独自の支援がある地域もあります。ただし、支給の条件や割合は立場や講座によって異なりますし、制度は変わります。利用を考える場合は、必ずハローワーク厚生労働省の公式情報で最新の内容を確認してください。 ここでは「そういう仕組みが存在する」ということだけ、記載しておきます。

また、私は学びの予算を「消費」ではなく、家計の中の「自己投資枠」として月額で固定しました。このあたりの家計側の考え方は、姉妹ブログのほうに記録しています(※ツミマネ関連記事)。

まとめ|何から始めるか、もう答えは出ている

50代の学び直しは何から始めるべきか。半年遠回りした私の答えは、こうなりました。

  1. A4一枚の棚卸し──学ぶ対象は書店の棚ではなく、自分の過去30年の中にある
  2. お金をかけずに小さく試す──撤退は失敗ではなく試着
  3. 意志ではなく仕組みで続ける──固定した20分は、意気込んだ3時間に勝つ

書店で立ち尽くしていたあの日の私に言ってやりたいのは、「テキストを買う前に、コピー用紙を一枚出せ」ということです。

もしあなたが今夜30分だけ時間を作れるなら、A4一枚、試してみませんか。書き終わった紙に何が並ぶのか──それはもう、誰の「おすすめ10選」でもない、あなただけの答えの原石だと思うのです。


この記事は個人の体験の記録であり、特定の講座や資格の効果を保証するものではありません。制度の詳細は必ず公式情報をご確認ください。

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